定住者への変更|許可事例と不許可事例の分かれ目

日本人の配偶者等、永住者の配偶者等の在留資格をもつひとが離婚後、あるいは死別後引き続き日本で生活するためには在留資格を変更しなければならない。変更する在留資格はたいてい「定住者」だ。そこで、「定住者」への変更許可申請において何が許可・不許可の分かれ目となるのか、許可事例、不許可事例をもとに検討する。

許可事例・不許可事例

『「日本人の配偶者等」又は「永住者の配偶者等」から「定住者」への在留資格変更許可が認められた事例』(法務省入国管理局(平成29年3月改訂))をもとに検討をおこなった。(下記のリンク、別ウィンドウ)

(英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語、タガログ語は下記から)http://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/nyuukokukanri07_00057.html

表の項目

許可事例・不許可事例をまとめた表の項目は、性別をのぞいて5項目で区分されている。本邦在留期間、前配偶者、前配偶者との婚姻期間、死別・離婚の別、前配偶者との間の実子の有無、である。

本邦在留期間

この5項目のうち、許可事例と不許可事例とで顕著な違いがあるのは、本邦在留期間および前配偶者との婚姻期間の2つである。

許可事例は、本邦在留期間、婚姻期間のいずれもが不許可事例より長い。

本邦在留期間をくわしくみると、許可事例でもっとも短いもので約5年1か月(許可事例2)、不許可事例の最も長いもので4年10か月(不許可事例1)である。少々乱暴だが、5年を目安としているようにも見える。

ともかく、本邦在留期間の長短は許可・不許可におおきく影響しているとみてよい。

前配偶者との婚姻期間

次に、前配偶者との婚姻期間をみる。

許可事例の最短は約3年(許可事例2)、不許可事例の最長は約3年11か月である(不許可事例2)。いっけん不許可事例の方が長く、おかしいように思えるが、事案の概要欄の単身期間を差し引くと、約2年2か月と短い。そうすると不許可事例の最長も約3年となる(不許可事例1)。

よって、許可を受けるには、婚姻期間はみじかくても約3年以上は必要である。

以上まとめると

① 本邦在留期間と前配偶者との婚姻期間は、許可・不許可におおきく影響する。

② 入管の審査要領には、前配偶者との正常な婚姻関係がおおむね3年以上続いていること、との要件が示されているが、本件資料からも裏付けられた。

③ 本邦在留期間が5年以上必要かどうかは事例がすくないので結論はおいておく。ただ、より長いほうが日本への定着性をうかがわせる要素になる。長いほうが有利であることは間違いない。

④ 前配偶者、死別・離婚の別、前期配偶者との実子の有無については、それ単独では許可・不許可を論じることはできない。

特記事項(事案の概要)で検討されていること

表には、特記事項(事案の概要)とした項目がある。この表は入管の運用の透明性の向上を図る観点から作成されていることから、その内容は審査の過程で比較的おもきを置かれて審査の対象となったものと推測される。そこで、記述からうかがわれる審査の対象となったものを列挙する。

親権者

許可事案では、定住者に変更しようとする者(申請者)は親権者であることがほとんどである。

ただし、前配偶者が親権者となって、申請者が親権者ではなかったケースが許可されていることに注目したい(許可事例7)。男性であること、毎 月3万円の養育費を継続してしはらっていること、サラリーマンとして収入が安定していることが、積極的事情となった。

親権をもっていない場合には、とくに注意して合理的な説明を文書にすること、これは必須である。立証責任、説明責任は申請者にある。

監護、養育の実績の有無

親権と監護・養育実績があることが、おおきなの積極的要素となる(許可事例1,4)。

養育の実績は、過去のことがらであるが、当然に現在と、将来の見通しも包摂していると考えるべきである。

安定収入の有無

収入に言及している許可事例が7件中4件ある。(許可事例1、2、3、7)

離婚又は婚姻関係破綻の原因

相手配偶者の家庭内暴力等、離婚や破綻原因が相手にあることに言及している許可事例は7件中4件ある(許可事例2、4、5、6)

一方、不許可事例にも家庭内暴力を原因とするものが2例ある。しかし、いずれも婚姻期間が3か月とあまりに短いケース(不許可事例5)、婚姻の実体があったのが約1年3か月と短いケース(不許可事例6)である。

このことから、家庭内暴力は、それだけで許可にかたむくような積極的事情ではないことが分かる。

双方に離婚意思があるか

婚姻関係が事実上破たんしていることを理由とする変更許可申請は、当事者双方の離婚についての意思確認が慎重になされる。当事者双方への意思確認のみならず、別居期間や離婚調停・訴訟の進捗などといった客観的事情、証拠にもとづいて判断される(許可事例2、5、6)。

当事者の一方が離婚に不同意であれば、不許可の公算が大きくなる。

在留状況

申請者の素行もみられる。退去強制事由とまではいかなくても、有罪判決が消極的事情とされるのはあきらかである(不許可事例1)。

信憑性

申請の信憑性はどのような申請においても重要。いったん信憑性のない申請者であると判断されると、次回以降の申請も不許可となる公算が非常に高い(不許可事例4、6)。


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