お世話になります。ビザコンサルタントの佐々木です。今回は、本国会提出の改正入管法案のうち永住者の在留資格(以下、永住権といいます。)の取消しについて書きます。
永住権を取消す場合を明文化
今国会で入管法の改正案が審議されていますが、そのなかで永住権を取消すことができる規定が2つ新設されることが論議を呼んでいます。
改正案22条の4第1項8号
八 永住者の在留資格をもつて在留する者が、この法律に規定する義務 を遵守せず(第十一号及び第十二号に掲げる事実に該当する場合を除く。)、又は故意に公租公課の支払をしないこと。
①この法律に規定する義務を遵守せず(第十一号及び第十二号に掲げる事実に該当する場合を除く。)、又は②故意に公租公課の支払をしないと、国は永住権を取消すことができる(必ず取消されるというわけではありません。)というものです。
①には少し首をひねりました。現行入管法に定められている義務のひとつに在留カードの携帯義務があります(23条2項)。これに違反すると20万円以下の罰金が科せられます(75条の3)。改正案では、永住者以外の在留資格では取消し事由となっていないのに永住権だけが取消し事由となるのは、厳しすぎやしませんか?
もう一つ、住所を変えてから90日以内に届けないことや嘘の住居地を届けたことが、他の在留資格では取消し事由となるのに永住権では取消し事由にならないことです。なぜ除かれたのでしょう?
なお、改正案では永住許可の要件も加重されています。「この法律に規定する義務の遵守、公租公課の支払等その者の永住が日本国の利益に合すると認めたときに限り、これを許可することができる。」(太字が加重された部分)
実務の運用上ではすでに税金、年金や健康保険などは納付期限に遅れただけで不許可とされています。一方、入管法に規定する義務の遵守はまだそれほど厳格に審査されているようには思えないのですが、明文化されたことで今後は一層注意が必要となるでしょう。
②は当たり前ですね。払えるお金があるのに払わない、日本のインフラや福祉にタダ乗りを許さないのは当然です。
改正案22条の4第1項9号
九 永住者の在留資格をもつて在留する者が、刑法第二編第十二章、第十六章から第十九章まで、第二十三章、第二十六章、第二十七章、第三十一章、第三十三章、第三十六章、第三十七章若しくは第三十九章の罪、暴力行為等処罰に関する法律第一条、第一条ノ二若しくは第一条ノ三(刑法第二百二十二条又は第二百六十一条に係る部分を除く。)の罪、盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第十五条若しくは第十六条の罪又は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第二条若しくは第六条第一項の罪により拘禁刑に処せられたこと。
拘禁刑に処せられたことがあるとその期間に関係なく永住権の取消し対象になり得ます。ここに規定されいる内容は現行法の別表1の在留資格で在留する者にたいする退去強制事由と同じ内容です。
技術・人文知識・国際業務などの活動資格では退去強制となるのですが、永住権を持つ者(永住者)には取消し事由としてペナルティーを軽くしています。とはいえ、現行法にはこの規定がないわけですから永住者には厳しくなったわけです。
取消し後は職権で在留資格の変更を許可
ここまでみると永住者にとても厳しい改正案だといえます。ただ、一方で救いの手も用意されています。
それは、職権で在留資格の変更を許可するものとするとされている点です(改正案22条の6)。
「(永住者の在留資格の取消しに伴う職権による在留資格の変更)
第二十二条の六 法務大臣は、永住者の在留資格をもつて在留する外国人について、第二十二条の四第一項第八号又は第九号に掲げる事実が判明したことにより在留資格の取消しをしようとする場合には、第二十条の規定にかかわらず、当該外国人が引き続き本邦に在留することが適当でないと認める場合を除き、職権で、永住者の在留資格以外の在留資格への変更を許可するものとする。」
これに対して現行法は次のように規定しています。
(在留資格の取消しの手続における配慮)
第二十二条の五 法務大臣は、前条第一項に規定する外国人について、同項第七号に掲げる事実が判明したことにより在留資格の取消しをしようとする場合には、第二十条第二項の規定による在留資格の変更の申請又は第二十二条第一項の規定による永住許可の申請の機会を与えるよう配慮しなければならない。
つまり、永住権を取消すときは他の在留資格を取消す場合とことなり、入管がその権限で他の在留資格への変更を許可するものとするとあります。単に配慮義務(配慮しなければならない)ではなく、一歩進めて義務付けに近い表現(許可するものとする)となっていることが重要です。
「永住権の取消し」=「不法残留・出国」という作り方にはなっていません。
「永住権の取消し」=「永住者以外の在留資格への変更」というのが正しい理解です。
一部報道では在留資格が取消されると家族との間を引き裂かれて出国しなければならならず「強制送還におびえながら暮らすことに」(東京新聞電子版)など極端なバイアスのかかった記事が見受けられますが困ったものです。
最後に
永住権の取消しが改正案で明文化されたことに反発する意見や報道が多く見受けられます。
一方で地方自治体からは永住者になったとたん納税などの公租公課の義務を果たさなくなる永住者がいることが以前から問題視されていたのも事実です。
外国人受け入れの問題は、先進各国の動向、国内情勢を冷静に分析しつつ対処することが大切と考えています。
お読みいただきありがとうございました。
外部リンク
出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律案新旧対照条文
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