なぜ嘆願書を入管に出すのがいいのか?

嘆願書を入管に出したほうがよいと思われる事例はそれほど多くはないかもしれません。とはいっても、難しい案件の場合には提出を検討することをお勧めします。

今回は、嘆願書をどんな場合に書くか、また、なにを書くかがテーマです。

嘆願書はどんな場合に書くか

嘆願書は、申請の不許可リスクが見込まれるときに提出するもので、申請者本人またはその近しい人が書きます。

審査は「相手方の申し立てた事実の存否を中心に事実認定を行う(審査要領)」とされています。ですので、提出する書類の内容だけでは不十分と判断される場合や入管法上の義務を申請人が果たしていない場合には、新たな事実(有利な事実)を申し立てて、不利な判断を修正してもらうことが必要になります。

具体的な場合として、離婚後6か月以上経過しているのに在留資格を変更していない、仕事を辞めて3か月以上経過している、罰金以上の刑を受けた、社会保険・税金など公的義務を果たしていない、などが挙げられます。また、申請人に近しい人が、その人の在留を心から願っている場合などです。

嘆願書はどう書くか

まず、審査官の判断をこちらに有利にすることが目的であることをはっきり意識することが必要です。そのため、屁理屈や入管行政を批判するような内容は避けるべきです。

淡々と事実を述べることが基本と考えます。

審査官も人の子です。提出資料の内容が思わしくない場合、それだけで申請人に対する印象が悪くなるバイアスがかかる傾向があるのではないでしょうか。つまり、申請人に不利なストーリーが無意識に作られてしまい、一気に不許可方向に振れることもあると思います。

でも、もし冷静に書かれた嘆願書があればどうでしょう。いったん、不許可方向に振れたものが、申請人の人となりを知ることで、ニュートラルに引き戻すことが期待できると考えます。

「相当性」の判断は、価値判断

審査官が行うものとして「相当性」の判断があります。これは、評価を含んだ判断のことをいいます。

「相当性」とは、具体的には、申請人の在留中の活動状況、行状、在留の必要性・許容性などを基礎づける事実の評価のことです。

簡単にいってしまえば、この申請人は在留中これこれのことをしていた、それをふまえてこの申請を認めるのが妥当か、社会通念・常識に基づく判断です。

嘆願書に書くべき内容は、申請人の在留中の活動、行状、在留の必要性・許容性などであって、「相当性」の判断に良い影響を与えるものとお考えください。

具体的にどう書けばいいのか

さて、ここからは書く具体的な内容です。

まず、申請人の活動状況・行状です。

その人のいいところを思い浮かべてください。ありがたいと思ったこと、いい人だなと思ったこと、あると思います。そのことを書きましょう。

でもここが肝心です、単に、いい人ですですというだけでは伝わりません。

そうではななくて、〜してくれたとても誠実で、親切な人、というように事実(エピソード)を交えて書きます。信憑性、説得性がぐっと増します。

次に、必要性・許容性です。

この人がいないとダメ、というのが必要性です。代替がきかないということですね。家族であればあたりまえのことです。また、会社であれば有能で勤勉な社員ということでしょうか。

そして、この人を受入れる環境がある、というのが許容性です。たとえば、サポートしてくれる友達がおおぜいいるとか、安定した仕事があってオーナーもすべてを理解したうえでこれからも雇ってくれるとか、といったことです。

いずれも具体的な事実を示して書くことがコツです。

嘆願書は、関係する人にできるだけ多く書いてもらうと効果的

誰に書いてもらうか

親族と同居しているのであれば、同居している配偶者、親または子から嘆願書を書いてもらうといいでしょう。

同居している人が、申請人と良い関係を築いていることはプラスの事情です。その証拠となる写真があればぜひ提出しましょう。

近所で親しいお付き合いのある方、職場の同僚や上司などからの嘆願書も効果的です。

将棋の天才羽生善治さんが、チェスの天才フィッシャーの解放(当時、オーバーステイで身柄拘束)を小泉首相に嘆願したことはよく知られています。

嘆願書は書いてもらう方一人ひとり内容が異なっているのが理想的です。

そして、嘆願書はできるだけ多くの人から書いてもらいたいものですが、頼まれた人にすれば何をどう書くかなかなか難しいものです。そこで、次善の策として下記の嘆願書を使うことがあります。

あらかじめ案文を用意して、署名だけすればよいような形にしておく方法です。そして、署名欄は10個くらい用意して回覧で署名をしてもらいます。この場合、署名が多く集まれば集まるほど、審査官に対するアピール効果が期待できます。

複数の人に書いてもらう場合の例

嘆 願 書

平成     年    月   日

法務大臣 殿

私たちは、    さんとは公私にわたって大変お世話になっています。

このたび、       さんが永住許可申請をすると聞き、少しでもお役に立てればと思いここに連名で署名することにいたしました。

つきましては、    さんのこのたびの永住許可申請につきまして、貴職におかれましては格別のご配慮を賜りたく、なにとぞお願い申し上げます。

以上

名前  〇〇 〇〇       住所  〇〇市〇〇 123-4

     :                  :

嘆願書という名前にこだわることはありません

嘆願書という名前にこだわる必要はありません。

推薦状、上申書、請願書、お願いなど、なんでもいいです。とにかく、申請を許可してあげてほしいことと、その理由を正直な言葉で表現さえできていればかまいません。

嘆願書に限らず、有利な資料はすべて提出する

入管は日本国民を相手にした行政サービスではありません。

市民目線ではなく、国益を視野に入れている役所だということを忘れてはいけません。役所などと違って手取り足取り教えてくれることは絶対にありません。

入管のHPに書かれている提出書類のほかは、資料を提出してはいけないというルールはありません。

申請に有利な事情や書面はすべて提出しましょう。ただし、提出する書類が多くなる場合には書類間の整合性、つまり、矛盾がないかには注意してください。

まとめ

嘆願書は、審査官の社会通念・常識に訴える効果的なツールです。

ひとり一人内容が異なることがベストですが、連名でも十分効果があると私は考えています。

※ 嘆願書は、あくまで法的な要件を満たしたうえで効果を発揮するとお考えください。それ自体が許可の要件ではありませんし、審査要領にも書かれていません。ただ、入管審査はさまざまな事実を総合評価したうえで判断されることから考えますと、嘆願書は、許可・不許可のボーダーライン上にいる場合の許可への「最後のひと押し」といえるでしょう。

お読みいただき、ありがとうございました。