新しい補完的保護対象者とはどのような人をいうのでしょうか

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入管改正法案で、補完的保護対象者が新たに定義されました。これは、どのような人をいうのでしょうか、とのような影響が予想されるのでしょうか。

まず、難民とはどのような人をいうのかおさえておきます。

難民の定義
難民の地位に関する条約(以下「難民条約」という。)第一条の規定又は難民の地位に関する議定書第一条の規定により難民条約の適用を受ける難民をいう。

難民の地位に関する条約
第1条【「難民」の定義】
   この条約の適用上、「難民」とは、次の者をいう。
(1) 1926年5月12日の取極、1928年6月30日の取極、1933年10月28日の条約、1938年2月10日の条約、1939年9月14 の議 定書または国際避難民機関憲章により難民と認められている者。国際避難民機関がその活動期間中いずれかの者について難民としての要件を満たしていないと決定したことは、当該者が(2)の条件をみたす場合に当該者に対し難民の地位を与えることを妨げるものではない。

(2) 1951年1月1日前に生じた事件の結果として、かつ、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者及びこれらの事件の結果として常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、当該常居所を有していた国に帰ることができない者またはそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを 望まない者。
二以上の国籍を有する者の場合には、「国籍国」とは、その者がその国籍を有する国のいずれをもいい、迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するという正当な理由なくいずれか一の国籍国の保護を受けなかったとしても、国籍国の保護がないとは認められない。

*筆者注:難民の地位に関する議定書により「1951年1月1日前」という時間的制約はなくなった。


次に、改正案にある新しい補完的保護対象者はどんなひとをいうのでしょうか。

補完的保護対象者の定義
難民以外の者であつて、難民条約の適用を受ける難民の要件のうち迫害を受けるおそれがある理由が難民条約第一条Aに規定する理由であること以外の要件を満たすもの(改正法律案要綱より http://www.moj.go.jp/isa/content/001341290.pdf

補完的保護対象者は、①難民にはあたらないこと、②迫害を受けるおそれがあること、③②の理由が難民条約第一条Aには規定されていないこと、のようです。つめて言えば、難民には該当しないが、なんらかの理由で迫害を受けるおそれがある者となります。

なお、「補完的保護」という用語は、どの国際文書においても定義されていません。 「補助的保護」、「人道的保護」、「一時的庇護」 という用語を使う国もあります。(2005年UNHCR 国際保護部門より抜粋 https://www.unhcr.org/protect/PROTECTION/435df0aa2.pdf

具体的にはどのような人なのでしょうか。

以下の入管の資料にヒントになります。8項目の「難民認定数及び人道上の配慮による在留許可数の推移」をみると、難民認定者以外(人道配慮)で在留をを認められているケースがあります。理由は、「本国情勢等」です。これが今後、補完的保護対象者という名称で在留が認められることになると思われます。

もし、そうだとすると難民認定をめぐる現状に大きな変化はなさそうです。

2021年5月13日追記

(出入国在留管理庁ホームページより抜粋)http://www.moj.go.jp/isa/content/001345497.pdf

改正入管法では、3回目の難民申請からは手続き中であっても送還が可能にする規定に批判が集まっています。
ただ、「難民の認定又は補完的保護対象者の認定を行うべき相当の理由がある資料を提出した者を除く」(改正法案61条の2の9第4項第1号)とあります。
つまり、漫然と同じ主張を繰り返すことは認めないが、新資料を提出したうえでの主張であれば3回目の難民申請であっても手続きの途中で送還はしない、と読めます。

難民認定制度の運用の更なる見直し後の状況について(2018.9)

出典:出入国在留管理庁ホームページ

http://www.moj.go.jp/isa/content/930003743.pdf

目次(全8ページ)
 1 “更なる見直し”~就労・在留制限措置の対象の拡大~①
   ・更なる見直しのポイント
   ・更なる見直しの具体的内容
 2 “更なる見直し”~就労・在留制限措置の対象の拡大~②
   ・在留資格「特定活動(難民認定申請者用)」の運用の推移
 3 難民認定申請数の推移
   ・難民認定申請数の推移
   ・複数回申請数の推移
   ・複数回申請の回数別の内訳
 4 国籍別 難民認定申請数の推移
 5 難民認定申請者の申請時の在留状況
   ・難民認定申請者の申請時の在留状況
   ・難民認定申請者の申請時の在留資格等
 6 難民認定申請案件の振分け状況等
   ・難民認定申請案件の振分け状況
   ・(参考)A.B.C.D案件の定義
 7 難民認定申請の処理状況
   ・処理状況の推移
   ・申請数・処理数の推移
   ・平均処理期間の推移
 8 難民認定数等の推移
   ・難民認定者の国籍別の内訳
   ・難民認定数及び人道上の配慮による在留許可数の推移

(おわり)