日本人の配偶者に変更したいが完全には同居していないとき使える判例

仕事や家庭の事情で同居しているのは週末だけ。そんな中、在留資格を日本人の配偶者等に変更の申請をしたいと考えている。こんなとき入管は夫婦が同居していない日数が長いことを理由に申請を不許可とするのでは…。

このようなお悩みを抱えている方はいらっしゃるのではないでしょうか。そこで今回は、このようなお悩みをもつ方に役立つ判例をご紹介します。

”別居でも婚姻の実体がある”とした判決

入管の内部審査基準に審査要領があります。これによると、社会通念上夫婦が共同生活を営むといえるためには、特別な理由がない限り、同居して生活していることを要するとされています。

たしかに、審査要領には、事実を確認したうえで別居している外形的事実のみに基づいて不許可とすることはしないとの記載もあります。

しかし、事実の確認のやり方については実に事細かな審査項目が定められていて、通常はクリアできないものばかりです。つまり、事実上、同居していない場合は申請を認めないといっているに等しいのです。

同居はほぼ必須の要件として取り扱われているのが実情です(でした)。

しかし、京都地裁平成27年11月6日判決(平成25行(ウ)46)では、「婚姻概念が多様化し、同居の有無は婚姻関係に実体があるかを判断する一要素」であるとしました。

そして、入国管理局がした在留資格の変更不許可処分を違法なものであるとして取り消したのです。

つまり、同居は、ほぼ必須の要件ではなく判断の一要素であるとし、より柔軟な事実認定をしました。

入国管理局はこの判決に控訴せず、判決は確定しています。つまり、今後同様の事案があった場合に、入国管理局はこの判決の考え方に沿って、婚姻の実体を審査することになると考えられます。

週末だけの同居

この判決の事案は、日本人男性と結婚した外国人女性が日本人の配偶者等に変更を申請したものの、別居などを理由に不許可となったというものでした。

別居の理由は夫の勤務時間でした。夫は平日神戸の実家で生活しながら、週末は女性と京都で暮らしてました。

判決では、夫婦が毎日メールなどをやりとりをしていることなども挙げ、「婚姻概念が多様化し、同居の有無は婚姻関係に実体があるかを判断する一要素だ」としています。

判決の利用法

この判例を使うのは、①外国人配偶者はすでに何らかの在留資格で日本に居住している、②結婚はしているが完全に同居しているわけではない、③外国人配偶者が在留資格の変更を希望している、という場面です。

判決が、入国管理局の判断を覆して違法と判断することは珍しく、また入国管理局が判決に対して控訴せず確定していることもこの判決の価値を高めています。これから同様の状況(同居期間が短いなど)で在留資格の変更や更新をする方にとっては大変利画期的な判決です。

ですから是非、申請する側でこの判例を指摘していただきたいと思います。

というのは、現場の審査官が入管関係の判決にいちいち目を通しているはずがなく、指摘しないと従来どおりの判断がされる危険があるからです。ですから、夫婦の同居に問題のある方は、この判決を引用して理由書を作成してください。

引用のやり方は、別居の理由やその間の夫婦の交流を関係資料を添付しつつ説明したあとに、「京都地裁平成27年11月6日判決(平成25行(ウ)46)に同旨(あるいは参照)」とすれば十分です。

また、この判決で婚姻に実体があるかどうかの判断の基礎となった事実を参考に理由書を書くことも効果的です。興味のある方は、申請に役立つ!日本人の配偶者等の注目判例もご覧ください。

まとめ

今回は、国が敗訴した珍しい判例をご紹介しました。

別居期間がある場合、日本人配偶者の在留資格変更・更新申請ともに慎重な対応が求められることは従来と変わりありません。

理由書や関係資料を十分に整えてから臨むことは当然ですが、かなりの困難が予想される場合には、この判決を思い出してください。

なお、最後に入管は別居しているからという理由だけで更新を不許可にはしていません。ですので、相手配偶者が行方不明だとしてもなんらかの手立てを探しましょう。どうせ無理だからと、オーバーステイになるのだけはやめましょう。

成功をお祈りします。

平成28年9月24日改訂
平成28年10月12日改訂
2021年5月4日改訂